「凄い混んでる!」
「どの飛行機に乗るの?」
彼は、そんなたわいもない会話をしていた。
おじいちゃんがその年の春に亡くなり、法要のために福岡に行くため彼は家族と共に羽田空港のロビーにいた。ロビーはお盆で帰省する人たちでざわめいていたが、元来の人混み嫌いの彼でも大好きな飛行機に乗れるとあってワクワクして出発を持っていた。
当初、彼の家族は「日本航空大阪経由福岡行き」のチケットを手にしていたらしい。
「満席で福岡までの直行便が確保できないかも」と言うことだったのだ。
大好きな飛行機に2回も乗れるとあって、彼は期待に胸がいっぱいであった。
しかし、直前になり彼の家族全員分の直行便チケットが手に入り、彼のささやかな期待は消えてしまったのだ。直行便で行けると喜ぶ家族を横目に、彼はちょっぴり残念な気持ちだった。
そして、彼の家族が手にしたチケットは「全日空福岡行き」に変わった。
お盆での混雑のせいだろうか。
飛行機の出発時刻が大幅に過ぎても、動き出す気配がない。
全日空福岡行きに乗り込んだ彼は、ぼぉーっと目の前のスクリーンに
映し出される映像を見ていた。
その時。
「日本航空大阪行き、123便が消息を絶ちました」
スクリーンを見ていた彼の目にNHKニュースが飛び込んできた。
体が固まるとはあの瞬間のことをいうのだろう。
「日本航空大阪行き」
この日、この時刻に大阪に向けて飛び立つ日航機はこれだけだった。
ついさっき、ロビーから飛び立つのを見送った飛行機だった。
そして彼の家族が乗ることになったかもしれない「あの大阪行き」がこれだった。
あれから20年。
彼は毎年この時期になると思い出す。
運命とはなんなのだろうか、と。
生きるとは、生かされるとはなんなのだろうか、と。

